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製紙会社の臭気対策

製紙会社の臭気対策

製紙会社がある町は臭いとよく言われます。この臭いは木材チップからパルプを製造する過程で発生します。よって、製紙会社の中でも、この設備がある工場でしか発生しません。屋外ヤードに大量の木材チップを積み上げ、高い塔(連続蒸解釜)が見える工場には、この設備があります。
製紙工場は、この臭気問題に取り組み、年々、改善を重ねています。製紙会社の臭気対策を紹介します。

臭いが発生するプロセスと臭気対策

パルプ製造工程からの臭気

パルプ製造工程では、連続蒸解釜に木材チップと、硫黄・苛性ソーダの混合薬液を入れ、蒸気で蒸しドロドロに溶かします。この時に硫黄系の臭気ガス(硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチル)が発生します。ここで発生する臭気ガスは、かなり濃度が高いので全て回収し、ボイラーで焼却処理します。

連続蒸解釜でドロドロになった原料は、異物を除去する精選工程、樹脂と薬液を洗い流す洗浄工程を経て、未晒パルプが完成します。この工程でも、原料から臭気ガスが出ますが、濃度は徐々に低くなります。この臭気も回収し、ボイラーで焼却処理しますが、焼却処理能力の限界で洗浄工程の一部の排気は屋外放出しているケースもあります。

洗浄廃液回収工程からの臭気

パルプ製造工程で洗い流された樹脂と薬液は全て回収し、ボイラー燃料となり、排出された灰が再び硫黄・苛性ソーダ混合液の原料になります。この工程からも臭気が発生します。ボイラー燃料に付随した臭気は燃焼分解されますが、炉底から排出された灰をアルカリ液で希釈して貯留するタンクから大量の臭気を含んだ湯気が発生します。
新型ボイラーはこの湯気を炉内に回収し焼却処理する機構になっていますが、まだ国内のほとんどのボイラーは大気放出しており、臭気発生源の一つになっています。これは何れ、新型ボイラーに置き換わっていくでしょう。

次に灰をアルカリ液で希釈した液は、連続蒸解釜で使用する硫黄・苛性ソーダの混合薬液に再生されます。この工程でも、各貯留タンクから臭気を含む湯気が発生しますが、大気放出している工場がほとんどで、臭気発生源になっています。

地上で臭気を感じるメカニズム

製紙工場では、即、臭気クレームになるような濃度が高いものは全て回収し、焼却処理しています。現在、大気放出している臭気は濃度が低く、気象条件によって臭うことがある代物です。この代物は臭気成分を含んだ湯気です。通常、湯気は大気との温度差で上昇拡散するので、地表で臭いを感じることはありません。しかし、湿度が高い梅雨時期や、気温が高い夏場は、湯気との温度差が小さくなり、上昇拡散が鈍くなります。そこに弱い風が吹くと風下の地表で臭う現象が発生します。
また、昼夜の温度差が大きい季節は、午前中の気温上昇期、夕方の日が沈んだ直後の時間帯に、大気の鉛直滞留が発生します。上空の空気が地表に流れて来るので臭いを感じます。

製紙会社の今後の臭気対策の課題

製紙会社では臭気をボイラーで焼却する能力も限界にきており、気象条件で臭うことがある程度の濃度が低い臭気を、どのように効率的に処理するのかが、製紙各社が抱えている課題です。臭気を含む湯気の発生場所が複数点在し、しかも一箇所当たりの発生量が少ないため、回収に多額の費用が掛かるのがネックです。しかし、世の中は段々と臭いに敏感になってきており、世間の感覚に乗り遅れないよう、この問題に投資していく必要があります。