ISOconsulのブログ

企業の環境実務者必見!

PRTR法改正に伴う移動・排出量算出法

PRTR法改正に伴う移動・排出量算出法

2023年4月からPRTR法の第一種指定化学物質が462→515物質に増えました。届出要件に該当する事業所は、2024年6月に前年度(2023年4月~2024年3月)の移動・排出実績を、都道府県知事へ届出しなければなりません。届出書に記載する移動・排出量の算出方法は、環境省が発行するPRTR届出ガイドラインに代表例が記載されていますが、代表例以外の物質が多く、算出方法に困っている事業所が多いのではないでしょうか。本ブログではその方法を紹介します。

※届出要件に該当する事業所------ 届出対象24業種。常時雇用従業員21人以上。第一種指定化学物質を1t/年以上(特定第一種指定化学物質は0.5t/年以上)使用。

移動・排出量の算出方法(薬品)

1.届出対象物質の選定

事業所で使用している薬品のSDSから、第一種指定化学物質を1%以上(特定第一種指定化学物質は0.1%以上)含有する薬品を抽出します。次に、その薬品の年間使用量を調べます。含有濃度と年間使用量を掛け算し、年間取扱量を算出します。これが1t/年以上(特定第一種指定化学物質は0.5t/年以上)だと届出対象になります。

2.移動・排出量の算出方法

PRTR法の届出書に記載するのは、PRTR物質が大気や水質、廃棄物へ移動・排出した量です。物質によって、取扱量1t/年以上であるが、使用過程で全て分解され、大気や水質への排出量はゼロのものもあります。その場合、届出書には排出量ゼロと記載します。排出量ゼロでも届出は必要です。 薬品を使用している事業者は、PRTR物質が使用過程で分解や変異するのか、また、その物質が自社の排水処理設備(沈殿槽や曝気槽等)で除去される性質があるのか、分からない場合がほとんどです。まず、製造メーカーに知見を聞いてみましょう。メーカーに知見があれば、その除去率を反映させ、大気や水質への排出量を算出しましょう。

移動・排出量の算出方法(排ガスや排水中の有害物質)

1.届出対象物質の選定

大気汚染防止法水質汚濁防止法ダイオキシン類対策特別措置法等で測定が義務付けられており、PRTR物質に該当するものが届出対象です。法的義務がないのに測定した結果は届出不要です。例えば、ダイオキシン類対策特別措置法の特定施設(廃棄物焼却炉)から排出する排ガスのダイオキシン濃度は、年1回以上の測定が義務付けられているので、届出しなければなりません。木くずやRPFを燃料としたバイオマスボイラーは、ダイオキシン類対策特別措置法の対象施設ではないので、ダイオキシン濃度を測定していても、届出不要です。この線引きをはっきりさせておかないと、不要な届出をしてしまいます。

2.移動・排出量の算出

測定結果はPRTR物質の濃度なので、それに排ガス量や排水量を掛け、排出量を算出しましょう。移動量は、産廃中に含まれるPRTR物質(PRTR法に該当する有害物質)が該当します。例えば、廃棄物焼却炉の焼却灰は、産廃処分業者に処理委託するので、PRTR物質が事業者から産廃処分業者に移動することになります。PRTR物質濃度に産廃委託量を掛け、移動量を算出しましょう。

行政による届出内容のチェック

上記の算出方法で6月末までに届出書を作成し、管轄の保健所へ提出します。その後、国の専門機関がチェックします。届出内容に疑義があると、4カ月後くらいに問い合わせがあります。新規物質を届出し、量が多いとチェックが掛かるようです。当社の例では、製造設備の洗浄に使うスケールコントロール剤の成分がPRTR物質に該当したので届出したところ、苛性ソーダと混合使用すると届出対象外の物質に変異すると教えて頂き、排出量ゼロで修正届を行いました。各事業所で可能な限り調査して届出書を作成しますが、PRTR物質の化学反応までは分かり兼ねる部分があります。最終的には、このような国に指導を仰ぎながら、届出精度を上げていくしかないようです。

PRTR物質算出方法の課題

上記のとおりPRTR物質算出方法の一例を紹介しました。国内のPRTR届出対象の事業所は、環境省ガイドラインを参考にするものの、特に薬品については、ガイドラインに掲載されていない事例が多く、算出に苦慮しています。届出数量が少ないと、国のチェックも掛からないので、前任者が算出した方法が正になっている事業者が多いのではないでしょうか。保健所に聞いたところ、同じ算出方法で時系列比較した時に、低減できていることがPRTR法の意義なので、算出方法の正否は問わないようです。本法の目的はPRTR物質を減らすことなので、その見解も一理ありますね。